金属加工業が盛んな新潟県燕市のヤスリ工場に、この道65年を超える熟練職人がいる。岡部キンさん。90歳で新商品の開発に携わり、92歳を前に白内障の手術を受けてからも週5日働いてきた。4日は誕生日。1年前から変わらない決意をもって100歳を迎えた。
新潟県燕市に3軒だけ残るヤスリ工場
「おはよぉっス」。午前8時50分。大きなあいさつとともに、岡部さんが有限会社「柄沢(からさわ)ヤスリ」の事務所に姿を見せる。戦前、ヤスリの一大産地だった燕市は、戦後に洋食器の生産にシフト。ヤスリ工場は今や3軒しかない。
「その服、よく似合っているよ」「若くて誰だかわからんかった」。軽口をたたきながら、隣接する工場へと向かう。入ってすぐのミシンのような機械が指定席だ。
同社の主な商品は、金属加工に使う工業用ヤスリと爪ヤスリ。岡部さんは、約30年前から爪ヤスリの「目立て」に専従している。15センチほどの棒状のステンレス材に、ヤスリの目となる幅0・1ミリ未満の溝を細かく刻む。この工程がヤスリの良しあしを決める。
「ダダダダダ」。激しい音を立てて目立てが進む。機械は両手両足で操る。
左足で台上のステンレス材を固定するペダルを踏み、右足は車のクラッチに当たるペダルを操作して、機械の動きを制御する。左手で水平方向に動くレバーを握り、目を立てる刃物の高さを調節。右手は人さし指をステンレス材に添え、刻み具合を微調整する。
先端に向かって幅が細くなるのに合わせて、左手のレバーを緩めて目立てを浅くする。繊細な作業は長年の経験に裏打ちされている。
機械は気むずかしい。思い通りに動かないとイライラし、調子がいいと気分が良くなる。
あまりに集中しているので、突然話しかけられるとびっくりしてしまう。用があるときは遠くから声をかけてもらうのが社内の決まりになっている。
「1日600本仕上げる」
岡部さんは1923年、新潟…
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