―デジタル空間でシミュレートしリアルにフィードバック、製造現場や都市開発などで活躍―
株式市場は、米国の金利上昇や原油価格の上昇といった外部環境に対する不透明感や新型コロナウイルスの感染拡大などの懸念材料への意識から不安定な状況が続いているが、一方で電気自動車(EV)やNFTなど成長が期待できる分野への関心は高い。
その一つで、インターネット上の仮想空間である「メタバース」も株式市場で関心の高いテーマだが、特にここ最近、製造業をはじめとするビジネスで活用されるケースが増えていることが話題になっている。その代表的なものが、半導体大手の米エヌビディア<NVDA>が手掛ける3次元(3D)の共同作業空間「オムニバース」などで、プラットフォーム上で3DCGの制作やシミュレーションなどの作業を実行できるようになった。
こうした、いわば産業用のメタバースで利用されることで注目度が高まっているのが「デジタルツイン」と呼ばれる技術だ。デジタル空間にリアル空間の双子(ツイン)を作る技術で、今後更なる技術の高度化や市場の裾野の拡大が期待できる。それに伴い、関連する企業のビジネスチャンスも拡大しそうだ。
●デジタル空間に“双子”を作るデジタルツイン
デジタルツインは、集められたさまざまなデータをクラウド上のサーバーに送信し、人工知能(AI)が分析・処理をすることで、リアルタイムにデジタル空間に物理空間を再現する技術で、これにより物理空間にあるモノの将来の変化をデジタル空間上でシミュレートすることができるようになる。製造現場や都市開発などでは事前のシミュレーションや分析、最適化をデジタル空間で行い、それをリアルにフィードバックすることで、モノづくりに役立てている。
デジタルツインという言葉自体は、以前からシミュレーション技術の一つとしてあったものの、近年の3Dや IoT、AIなどの技術の発展により、より高度化し、さまざまな分野で活用できるようになってきた。例えば前述の「オムニバース」では、3Dコンテンツの共有や、リアルタイムのコラボレーションによる共同開発、物理法則の再現やモデル化による自動化のテストや検証、工場のシミュレーションができ、既に自動車製造などに活用されている。また、トヨタ自動車 <7203> が静岡県裾野市で進めているスマートシティ構想「Woven City(ウーブン・シティ)」でも、実際に建設した場合の人や車の流れ、都市機能が正常に動作するかなどをデジタルツイン技術を用いてシミュレーションを行っている。
●コロナ禍受け市場規模は急拡大中
特に新型コロナウイルスの感染拡大以降、企業は最小限の人員で運営することを余儀なくされており、プロセスの合理化のためにデジタルツイン技術を導入するケースが増えている。市場規模も拡大しており、調査会社のマーケッツ&マーケッツによると、2019年に約38億ドルだったデジタルツインの世界市場は、25年までに約358億ドルへ拡大する見通しだ。
デジタルツインの導入により省人化が図られるほか、時間の短縮や費用対効果の高いオペレーション、予定外のダウンタイムの排除が可能であることが市場の成長を牽引している。また、活用分野が製造業だけではなくヘルスケア、農業、エネルギー、公益事業などへ広がっていることや、IoT、AI、5Gなどの技術の進展がその成長を加速させているようだ。
製造業におけるデジタルツインの活用では、自社開発でシステム化を進める企業が多いが、プラットフォームや関連技術を手掛ける企業も増えており、今回はそうした企業に注目したい。
●YEデジタル、サイバネット、ファナックなどに注目
YE DIGITAL <2354> [東証2]は、デジタルツインによるシミュレーションで、生産性要素データを元にした倉庫の稼働率や生産性などの分析を可能にした、物流倉庫の自動化促進に特化したWES(倉庫実行システム)「MMLogiStation」を開発し、昨年11月に提供開始している。同システムを活用することで、自動化設備の導入をスピーディーに実現し、倉庫内のオペレーション全体の最適化を可能にする。
ジェクシード <3719> [JQ]は昨年7月、米マターポート<MTTR>の3D空間技術を活用したデジタルツインサービス「ArchiTwin」を提供するArchiTwin(東京都中央区)とデジタルツイン事業で業務提携した。9月には第1弾として米ボックス<BOX>が提供するクラウド型文書管理システムBoxと連携する「ArchiTwin Box連携モジュール」の販売を開始しており、今後も協業を進める方針だ。
サイバネットシステム <4312> は、CAE(コンピューター支援設計)の分野で35年以上にわたって蓄積してきた実績と知見を元にIoT/デジタルツイン構築サービスを展開している。シミュレーション環境を含むIoTシステムアーキテクチャーの提案からプロタイプの開発・検証、運用拡大に向けた最適化までワンストップで支援しており、納入実績も多い。
ウイングアーク1st <4432> は製造現場のデジタルツインを実現するため、データ可視化・分析ツールとしてBI(ビジネスインテリジェンス)ツールの「MotionBoard」を提供している。多彩なオブジェクトを利用した立体的空間の表現で、その場を訪れなくても製造現場の状況が手に取るようにわかるなどの特徴があり、デジタルツイン実現に貢献している。
ゼネテック <4492> [JQ]は、18年から世界的に実績の高い米フレックスシム・ソフトウェア・プロダクツ社の3Dシミュレーションソフト「FlexSim」の日本国内総代理店となっている。更に同社では「FlexSim」にBIRD INITIATIVE(東京都中央区)の国産AI技術を統合させた「iPerfecta(アイパーフェクタ)」を開発しており、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進している。
ファナック <6954> は、デジタルツインを使った顧客工場の効率化提案を新たなサービスとして展開している。CNC技術とデジタル技術を相互に連携させ、工作機械が存在するリアル側からのフィードバックを元に、シミュレーションなどのデジタル技術を活用。工作機械の設計や加工現場の作業における効率化や最適化を加速させている。
KIMOTO <7908> は、創業以来の継続事業である地図及び測量関連事業をデジタルツイン事業へと進化させている。3Dスキャナーで実空間を計測して3Dモデルなどのデータを作成する技術であり、デジタルツインの実現に技術面で貢献している。
このほか、衛星データによる都市デジタルツインを活用したお祭りXR「デジタル花火大会」の実証実験を福岡市で行ったTIS <3626> 、デジタルツインソリューションを提供する伊藤忠テクノソリューションズ <4739> などにも注目したい。
株探ニュース
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