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Sunday, August 1, 2021

災害に強い分散型エネルギー、LPガスの利活用 - 経済産業省

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LPガスは、全国的には約4割の世帯で使われている身近なエネルギーです。このLPガス、実は災害に強いという特長があります。これまでスペシャルコンテンツでは、災害に強いエネルギーシステムの構築について、「電力」、「石油」そして「都市ガス」(「災害に強い都市ガス、さらなるレジリエンス向上へ」参照)における取り組みをご紹介してきました。今回は「LPガス」のレジリエンス(強靭性)について取り上げます。

持ち運びもカンタン、全国各地で使用されるLPガス

LPガスは、大きなボンベに充てんされて家庭の熱源として使われているほか、アウトドアや停電時に威力を発揮するカセットコンロのガスボンベの中にも充てんされています。身近なエネルギーのひとつですが、そもそもLPガスとはどのようなガスなのか、みなさんはあらためて説明できますか?

LPガスとは「Liquefied Petroleum Gas」の略で、日本語では「液化石油ガス」とも呼ばれます。プロパンガスとブタンガスを原料に作られるガスの総称です。対する都市ガスの主成分はメタンガスです。

都市ガスとのちがいは、これら原料のガスの性質のちがいに由来しています。都市ガスの原料であるメタンが液状になる「液化温度」は-162 ℃と超低温なのに対し、プロパンは-42℃、ブタンは-0.5℃です。また、プロパンやブタンは加圧すれば常温でも容易に液化します。そこで、LPガスは液化させた状態でボンベに充填されて各家庭などに運ばれ、使用時に気体となって消費されます。一方で都市ガスは、気体のまま地下に埋設したガス管を通して供給されます。

LPガスは、家庭用やレストランなどの業務用のほか、工業用、自動車用の熱源・燃料として、さらには合成樹脂やゴムを作る原料としても使われています。また、都市ガスにも、熱量を増加させる用途で使われています。都市ガスの主原料であるメタンの熱量はプロパンの半分、ブタンの3分の1と、給湯やガスコンロの熱量としては不十分なため、LPガスを混ぜて増熱しているのです。

LPガスの用途
LPガスの用途を円グラフで示しています。主な用途は、家庭業務用が46%、工業用が23%、化学原料用が19%となっています。

(出典) 石油・天然ガス小委員会 石油市場動向調査WG (2021.4.6)

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また、ボンベに充てんすれば簡単に運べるため、山間部や離島も含め全国各地に供給されています。都市ガスの導管は国土面積の7%しかなく、47都道府県のうち32の道県ではLPガス使用世帯数が都市ガス使用世帯数を上回っています。

東日本大震災でも実証された、LPガスの強靭性

では、LPガスはなぜ、災害に強いエネルギーといわれるのでしょうか。もっとも大きな理由は、「自立稼働が可能な分散型エネルギー」だということです。LPガスは容器に充てんして必要とする場所に設置できる「分散型」で、電力などを介さずに、独立して稼働します。このため、災害で電力供給がとだえたときでも、じゅうぶんに力を発揮できるのです。

自家発電機用の燃料となる重油や軽油も、同じく「自立稼働が可能な分散型エネルギー」に位置づけられますが、重油は3カ月、軽油は半年で劣化が始まるため、残念ながら長期保存には向きません。この点、LPガスには品質劣化や機材を腐食させてしまうなどのリスクもなく、長期保存が可能です。

さらに、ガスボンベの平時の供給体制そのものが、実は災害への備えにもなっています。家庭用LPガスは、ガス切れを起こさないよう2本セットで設置されるのが基本です。つまり、使用中の1本に加え、常に満タンのボンベが予備として設置されているのです。この「軒下在庫」があることによって、災害が起きても1カ月程度生活できるだけのガスが備蓄されていることになります。

こうしたLPガスの災害への強さは、東日本大震災でも証明されました。災害では、特に被災から3日間(72時間)をいかに乗り切るかが重要とされます。実際、自衛隊などが援助に入るまでに、各地の避難所でLPガスの軒下在庫を活用した暖房・炊き出しなどがおこなわれ、命をつなぐ役割を果たしたと報告されています。また、設置が容易なことから、被災者のために建設された仮設住宅でも、発電、冷暖房、調理、給湯の主要エネルギーとして用いられました。

さらに、復旧が早いのもLPガスの特長です。被災しても、LPガスの場合は1戸単位での点検・修理で済み、ボンベから使用する場所までの配管も短いため、迅速に復旧できるのです。

東日本大震災を契機に、さらなるレジリエンス強化を追求

東日本大震災を契機に、あらためてその強靭性が見直されたLPガス。近年は、さらなるレジリエンス強化に向けて、自衛的な「備蓄燃料」としてのLPガスの利活用が推進されています。

その一例が「LPガス災害バルク等導入事業」です。この事業は、ライフライン機能の維持が求められる医療施設や老人ホーム、避難所となり得る自治体庁舎、学校、公民館、商業施設などを対象に、「LPガス災害バルク貯槽」やLPガス発電機などの設備導入にかかる経費の一部を補助するものです。これまで全国985カ所にバルクシステムなどが導入されました。

「LPガス災害バルク貯槽」とは、LPガスを貯蔵できる、耐震性や安全性にもすぐれた巨大タンクのことです。施設の規模などに応じて導入されるタンクの容量は1トンや3トンなどさまざまですが、たとえば1トンのLPガスで、「発電機1台+ガスストーブ5台+70人分の朝昼晩の炊飯+ガスコンロ2台+1日3時間のシャワー」を12日間まかなうことができます。ガスをエネルギー源とする「ガスヒートポンプエアコン(GHP)」を使用すれば、冷暖房の供給も可能です。もし、地震や台風、豪雨などで電力や都市ガス供給網がとだえても、ライフラインを確保する切り札になり得るのです。

一方、LPガスを家庭用ボンベに充てんする施設「LPガス充填所」のレジリエンス強化も図られています。東日本大震災の際に、停電で稼働停止に陥った充てん所があったことを踏まえ、自家発電設備や緊急用通信設備などの整備がおこなわれました。日本全国に約2200カ所ある充てん所のうち、342カ所が停電時にも自立的に稼働できる「中核充てん所」となり、災害時の安定供給が強化されました。

全国342カ所に整備された中核充填所
全国342ヵ所の中核充填所の数を、都道府県ごとに日本地図上で示しています。

※数字は各県にある中核充填所の件数

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進む「供給源の多角化」と「国内備蓄」

LPガスのレジリエンスを高める取り組みは、LPガス供給網の上流でもおこなわれています。その一つが、供給源を多角化することです。LPガスの製造方法は複数ありますが、日本はLPガスの調達を長らく中東の原油を材料とした製品に依存しており、ピーク時の2007年度には輸入の91%を中東に頼っていました。

2020年度現在、中東からの輸入は12.5%にまで低下しています。代わって輸入が増えているのが、アメリカです。いわゆる「シェール革命」により、従来のガス層より深いところにあるシェールガスの採掘が可能になり(「2018年5月、『シェール革命』が産んだ天然ガスが日本にも到来」参照)、そこから分離・回収したLPガスの輸入が増え、2020年度には67.1%にまで急増しました。しかし、調達国の一極集中はリスクがともなうため、ここ2、3年はカナダやオーストラリアからの輸入も増やし、供給源の多角化を進めています。

もう一つの取り組みは、国内でLPガスの備蓄を進めることです。世界情勢や災害、事故など、さまざま理由で輸入が途絶するリスクに備え、LPガスは国内で一定量を備蓄することが法律によって義務づけられています。2021年3月現在、「国家備蓄」約139 万トン(53日分)、LP ガス輸入業者が保有する「民間備蓄」約146 万トン(56日分。なお義務日数は40日分)、合計約285万トンが日本各地の蔵置場所に貯蔵されています。

「災害に強いエネルギー供給体制の構築」のための重要なエネルギーとして、今後もレジリエンス強化に向けたLPガスの活用が期待されます。

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記事内容について

資源・燃料部 石油流通課

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長官官房 総務課 調査広報室

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