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Friday, July 7, 2023

伝導率が世界最高のリチウムイオン伝導体が示す全固体電池設計の ... - 東京工業大学

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用語説明

[用語1] 超リチウム(Li)イオン伝導体 : 固体中をイオンがあたかも液体のように動き回る物質を超イオン伝導体と呼ぶ。イオン種としては、陽イオンでは銀や銅、陰イオンでは酸素やフッ素などが知られている。Liイオンの場合、1 mS cm−1程度の伝導率を示す物質が超イオン伝導体ならびに固体電解質と呼ばれる。特に高エネルギー密度電池として期待されている超Liイオン伝導体については、イオン伝導率と安定性を兼ね備えた物質の開発を目指し、1960年代からポリマーや無機物質系などの分野で物質開拓が行われてきた。無機系での物質開拓は酸化物から始まり、2000年頃より硫化物系の探索と電池への応用研究が盛んになり、2020年頃からハロゲン化物が注目を集めている。

[用語2] 全固体電池 : 安全性をできるだけ高めるために、電池の構成部材である正極、電解質、負極をすべて固体の物質で構成した電池。現在のLiイオン電池に用いられている液体電解質は可燃性であるため、使用には安全対策が必須となる。そのため、高い性能を担保しつつ、蓄電池の小型化と低コスト化を実現するために、難燃性で低揮発性の物質への代替が期待されており、固体の電解質はその候補物質の1つになっている。

[用語3] 高エントロピー化 : 多種の元素を用いて1つの物質を構成することにより、ユニークな性質を持つ材料の創出を目指す開発戦略の1つ。合金分野で用いられてきたが、近年、酸化物や非酸化物のセラミックスでも採用され、触媒や電池の分野で高エントロピーの材料開発が報告されている。本研究では、Liイオン伝導に有利な構造を維持しつつ、組成を高エントロピー化することを指針とした(参考図)。

参考図:組成の高エントロピー化を指針とする新材料の組成設計。(A) 原子配列のエントロピーを模した組成の複雑性の指標。計算の都合上、陰イオンと陽イオンはそれぞれの位置に等しい確率で存在するという前提をおき、Liイオンは考慮しない。(B) 組成の複雑さとイオン伝導性の相関。過去に報告されたLiイオン伝導体のデータ(酸化物系 250件)を機械学習の手法で分析すると、組成から計算されるパラメータの中で、組成の複雑さとイオン伝導性の良好な相関が導かれる。この相関に基づくと、組成の複雑さ、すなわち組成の高エントロピー化が高イオン伝導性を実現する鍵である。(C) 従来材料の結晶構造の維持に必要な組成の条件探索。組成から計算されるパラメータで、既知の硫化物系の固体電解質(Argyrodite型、および従来材料のLGPS型)が分離できるものを探し、イオン半径から算出した総体積比(C6)を結晶構造の維持の条件として採用した。(D) (B)と(C)で得られた2つの指標で、既知の硫化物系の固体電解質をプロットした。今回合成した組成(赤い三角)は、LGPSの結晶構造の維持が期待できる範囲で、できるだけ高い組成の複雑さを狙った。

参考図
組成の高エントロピー化を指針とする新材料の組成設計。(A) 原子配列のエントロピーを模した組成の複雑性の指標。計算の都合上、陰イオンと陽イオンはそれぞれの位置に等しい確率で存在するという前提をおき、Liイオンは考慮しない。(B) 組成の複雑さとイオン伝導性の相関。過去に報告されたLiイオン伝導体のデータ(酸化物系 250件)を機械学習の手法で分析すると、組成から計算されるパラメータの中で、組成の複雑さとイオン伝導性の良好な相関が導かれる。この相関に基づくと、組成の複雑さ、すなわち組成の高エントロピー化が高イオン伝導性を実現する鍵である。(C) 従来材料の結晶構造の維持に必要な組成の条件探索。組成から計算されるパラメータで、既知の硫化物系の固体電解質(Argyrodite型、および従来材料のLGPS型)が分離できるものを探し、イオン半径から算出した総体積比(C6)を結晶構造の維持の条件として採用した。(D) (B)と(C)で得られた2つの指標で、既知の硫化物系の固体電解質をプロットした。今回合成した組成(赤い三角)は、LGPSの結晶構造の維持が期待できる範囲で、できるだけ高い組成の複雑さを狙った。

[用語4] 大強度陽子加速器施設J-PARC : 茨城県東海村にある大強度陽子加速器施設。高エネルギー加速器研究機構と日本原子力研究開発機構が共同で運営している。加速した陽子を原子核標的に衝突させることにより発生する中性子、ミュオン、中間子、ニュートリノなどの二次粒子を用いて、物質・生命科学、原子核・素粒子物理学などの基礎科学から産業利用までが研究されている。

[用語5] 第一原理計算 : 物質の性質や、原子構造、化学結合を調べることができる計算法。計算はパラメータを用いずに、元素種と原子位置のみを指定して実施される。計算により安定な構造が分かるだけでなく、イオンが伝導した際のエネルギー障壁も計算することができる。本研究では、高エントロピー化前後のエネルギー障壁を計算するために使用した。

[用語6] Liイオン伝導機構 : 無機系のLiイオン伝導体の場合、Liイオンのみが移動し、他の構成元素は動かない場合が多い。このとき不動の構成元素を骨格とみなすと、Liイオンが動ける空間は限られるため、伝導経路を考えることができる。したがって結晶構造解析によって、骨格元素と、Liイオンが存在し得る位置がわかれば、Liイオンの通る道を推定できる。実際にLiイオンが通る可能性が高いかどうかは、計算科学の手法でシミュレーションできる。

[用語7] 次世代の蓄電デバイス : ガソリン車並みの航続距離を持つ電気自動車の実現に向けて、革新電池の開発が国内ではNEDOやJSTを中心に進められている。現行のLiイオン電池に代わり得る新規な電池系として、5 V系Liイオン電池、水系Liイオン電池、Li金属二次電池、金属空気電池、ナトリウムイオン電池、マグネシウムイオン電池、アルミニウムイオン電池、Li硫黄電池、フッ化物イオン電池などが知られている。全固体電池もその1つで、韓国、中国、米国、および欧州で実用化を目指した大型研究プロジェクトが進行している。

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